青空茶会 一緒に旅を始めて、どれ位が経ったかと忘れるくらいに、一つ一つが新たなことばかりで…そして、一日一日が忘れられない記念日となる。 一人で旅をしていたらなかっただろう…あの人と旅をしているからこそ何でも記念となるんだと思うと恥ずかしく、そして照れてしまう。 『機嫌がいいな、十代』 笑いながら現れたユベル。けれどユベルの表情も世界が自分だけだった頃とは違う様々なものが見られるようになった。 それが嬉しくもあり、そしてユベルの一番が自分とわかっていても嫉妬してしまう自分がいる。 やさしい人、強い人、大きな人、小さな人、綺麗な人、かっこいい人 彼は様々な言い方で称される。 心が優しい、心が強い、心が大きい、背が小さい、綺麗、かっこいい…他にも旅をしていてはじめて知る称され方もたくさんあった。そして、妬みや皮肉以外で称されるものはどれも彼に合っていていた。(小さいというと、恨めしく睨んできていたが) たくさんの人に出会った、彼は現実世界でもデュエルモンスター世界でも知り合いばかりで、初めて出会った人とも大概仲良くなる…ノリがよかったりする人は、大体自分のほうが意気投合するが。 今、彼はサイレント・マジシャンとサイレンと、ソードマンいう彼の現在のエースモンスターと共にお茶の準備をしている。手伝おうとしたら、モンスターたちの視線が痛く、そして彼に「ゆっくりしてて」と笑顔で言われたのが決定打だった。だから少し離れた、けれど見える位置の泉の傍にいた。 その泉は現実世界ではありえない魚や、そしてモンスターも泳いでいた。 最初は石を投げて間違えて当ててしまったモンスターが襲ってきたりもしたが謝り、今ではよく話したりもしている。 友好的なものもいれば、何の意味も無く攻撃をしてくるものもいて…命を懸けているといっても過言ではない旅。それでも、自分達を守ってくれる仲間…モンスターもいてこうやっている。 泉に映る自分の姿の横に存在しないはずの己の姿が映る。 それは此処とは更に違う異世界を支配していた《覇王》と言われる自分。 現実世界ですら想像を絶することが起こる。そしてこの世界は更に起こりやすく、時たま気紛れの様に見えることがある。 己と一体化しているはずのそれは、今では同じ存在でありながらも異なる存在のようにいる。 自分だけだが、話すこともでき…常に繋がっているといってもいい存在である。 けれど、自分を乗っ取るでもなくただ共にいる存在。《覇王》の最近の興味…というより、現れた切欠すら自分と旅をしている彼にあるということだ。 今も、面白そうに彼をみている。 「なんだよ」 《別になんでもない…それとも、俺が見て何か不都合でも?》 「…個人的には、すっげーやだ」 《自己中心的だな》 「お前にだけは言われたくねぇーー!!」 《確かにな。ま、俺もお前も独占欲が強いのは仕方ないだろう》 「自覚済みかよ…てか、邪魔するなよ!」 《…さあな》 同じ顔でありながら、自分よりも妖しげな表情でニヤリと笑って消えた存在に拳を握りながら怒りのぶつけ場所を探しているのをみてユベルが笑いを堪えているのが目に入った。 《覇王》の存在も認め、俺と《覇王》のやり取りを見ているのはいつもユベルだけ。俺以外にも存在を認めているユベルを《覇王》もそれなりに気に入っているのは伝わってきている。 「十代君、ユベル、お茶の準備が出来たよ」 そんなユベルを横目で見ていると、声が響いた。 普通だったら届くことは無いくらいな声なのに、澄んだその声は他のどの音よりも耳に通るものだった。 振り返って見てみると、そこには笑いながら手を振っている彼…武藤遊戯がいた。 「はい!今行きます!」 『わかったよ、今行く』 異口同音で返事をした俺たちはまるで競うようにそこに向った。 これから楽しく、そして少しだけ緊迫した(遊戯さんの)取り合いが始まる。それも楽しいとは思うけど、邪魔はしないで欲しい…とサイレンント・マジシャンを見ると彼女は既に遊戯の横の席をキープしていた。サイレント・ソードマンは遊戯の正面に。 急いでもう一つの遊戯さんの隣の席に座った。 「そんなに急がなくても、お茶もお菓子も逃げないよ」 「あ、はい!急いだのは、そういう理由じゃないんですけど…」 「何か言った?」 「なんでも、ありません」 そんな俺に笑っている遊戯さん。急いだ意味を教えようとしたけれど周りの人(?)の目が痛くて出来なかった。 いつも何時もことごとく邪魔をしてくる周囲に、今ではどうしようか策を巡らせるのが日課になってきている。 「じゃ、始めようか」 遊戯さんの声でお茶会が始まる。 暑い日差しは大きな白い傘で遮られ、心地よい風が泉の冷たさを運んでくる。誰かと一緒に長くいて、こんなに癒されたことは今までなかった。 「十代君?ほら、食べなよ」 「ありがとう御座います、遊戯さん」 遊戯さんが差し出してくれたお菓子を手に取り、食べる。そのお菓子がどのお菓子よりも美味しく感じたのはこの気持ちの所為なのだろうか。 出ている答えは、まだ伝えられない… |
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